「いきなり!ステーキ」でおなじみのペッパーフードサービス創業者の一瀬邦夫さんとお会いした。古い付き合いだ。

出会いは私の恩師であるつぼ八の創業者、石井誠二さんの紹介だった。一瀬さんの経営者人生が特徴的だ。51歳でペッパーフードを創業。64歳で史上最年長の経営者として東証マザーズ(現・東証グロース)に上場。71歳で「いきなり!ステーキ」のブランドが大ヒットした。「安くておいしいステーキをいきなり食べたい」という思いを潜在的な需要と考え提案したら、大行列になったという。

日本国内では月20~30店舗を拡大する勢いで、さらに米ニューヨークに進出したが、その後、伸び悩んだ。「管理者不足」が苦戦の要因だったという。そして、業績不振の責任をとり、80歳のときに辞任を余儀なくされた。創業した会社のトップを辞するのは「辛かったというか、さびしかった」という。

辞任した際、「うまくいくはずがなかった」と、一部のマスコミやネットからの批判を受けていた。これに対し、私はこのコラムで「挑戦した人を、挑戦してもいない人が批判するのはおかしい」とエールを送った。

その一瀬さんが、東京・両国に和牛ステーキ専門店「和邦」をオープンした。上場企業の社長だった人が、毎日店に立ち、仕入れから食器洗いまで、出来ることはなんでも自分でしているという。

先日出版したエッセイ『一瀬邦夫 81歳の男の子!』でも書いてあるが、最近、振り込め詐欺被害に遭ったというエピソードを話してくれた。区役所を名乗る人物から電話で「還付金が受けられる」「受けないと健康保険が利用できなくなる」といわれ、計約700万円をだましとられたという。冗談交じりに語っていたが、それぐらい、純粋な人だとも感じた。

一瀬さんが大事にしている言葉は「決意とは自分との約束」。81歳で組織もないなか店をはじめた。最初は体力的にもしんどかったと語っていた。しかし、私の「夢に日付を」に通じる考えで、自分で決めた「やるぞ」という強い意志が、現実をひとつひとつ変えていく。

一方で、気合と根性だけの時代ではない。経営とは変化対応業だ。ワタミは3年連続で、経済産業省の制度である健康経営優良法人の認定を受けた。残業をはじめ労働時間は適正管理されているか、有給休暇は確保できているか、健康診断を受けているかなど、指標が明確だ。

それに加えてワタミでは独自の「従業員幸せ実現会議」も毎月開催している。さらに副社長が年に2回、全社員と個別に面談する「夢会」という仕組みも定着させ、ボトムアップ意見や、社員の夢に寄り添っている。

大事なのは未来だ。失敗を経験しても、81歳で再挑戦をしている一瀬さんを見ると改めて、「挑戦とお肉」は人を元気にするものだと感じる。そして一瀬さんの代名詞を借りれば「いきなり」かなう夢などひとつもない。夢とともに人は成長するものだ。

 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より